ブログ

Be-Chu' s Perspective

 

2本の最新調査から、AI Overviews と「ゼロクリック」の現在を読み解いてみたいと思います。
本当にゼロクリックは発生しているのか? AI Overviews はどのような状況で表示されているのか?など、私たちの検索行動を取り巻く現在がわかります。

 

 

AI Overviews と「ゼロクリック」検索がもたらす問い

 

Googleが2024年に本格導入を開始した「AI Overviews(AIO)」は、検索結果ページの上部にAIが要約した「回答」が表示される機能です。回答は、複数の情報源をもとにしてAIが自動生成します。利用者側からすると、検索によって知りたいこと(知識や課題)がパッ!と表示されるようになるのでとても便利なのですが、一方で大きな問題も含まれています。問題は大きく分けて2つです。

 

  1. ゼロクリック という現象(直接的・表面的な問題)

    これまで Google は利用者が知りたいことに対して、その情報が掲載されている(だろう)ページを表示させることで利用者の利便性に応えてきました。逆にサイト運営側(企業・団体・個人)からすると、Googleで探してクリックしてくれる(青いリンクをクリックしてくれる)ことを通じてサイトへの訪問者を得られるという構造になっています。SEOは、この時にサイトへの訪問者を増やすための行為として行われてきました。
    今回のこの AI Overviews の登場は、利用者が「青いリンク」をクリックすることなく回答を得られるため、サイト運営側からすると、サイト訪問者が減少するという大きな問題になるわけです。この、検索結果のページに留まったままでサイトに訪問しないことを「ゼロクリック」と表現しています。

  2. Google との共存関係の終焉(構造的な問題)

    サイト運営者はこれまで、SEOという言葉があるように、自身のサイトの情報を積極的にGoogleに読み込んでもらうことを良しとしていました。それは結果的に自社サイトへの訪問者を増やすことにつながるからです。サイト運営側は Googleに自社コンテンツを提供し、Googleはサイトへの誘導を提供するというある種の共存関係が成り立っていました。特に、メディア媒体・オンラインメディアにとっては、サイト訪問の大きな入口のひとつになります。
    しかし、AI Overviews の登場によりゼロクリックが多く発生した場合、この共存関係が崩れ、「Googleが他のサイトの情報を勝手に利用して回答を作成する」という搾取のような構造になってしまいます。特に、メディア媒体・オンラインメディアの運営側にとっては大きな問題として立ち現れてきます。これを許すのか許さないのか、どこまで許容するのかということが議論になります。
    (こちらについては、今回は詳しく取り上げません)

 

今回は1つ目の問題、「ゼロクリック検索」の動向についてみていきたいと思います。
ユーザーが検索結果を見ただけで疑問を解決し、外部サイトを一切クリックしない行動がどれほど増えているのか、ということですね。d(^_^)

 

その前に、この現象に対してGoogleがどのように表明しているかを見ておかなくてはいけません。

この後登場する、Kevin Indig氏の記事をもとに紹介すると…
Google側も問題が指摘されることを十分承知していて、Googleの親会社であるAlphabetのCEO、サンダー・ピチャイ氏は複数のカンファレンスで次のように話しています。

  • 全般的に、利用は全体的に増加しており、前年比で見ると、エコシステムへのトラフィックを増やすことができている (出典)
  • 人々はまったく新しい方法で検索するためにこれを利用しています...そしてウェブが提供する最高のものを手に入れている(出典)

 

ピチャイ氏のこのコメントは楽観的に表現されています。
それは当然です。「AI Overviews 導入したので、もう青いリンクはクリックされません。クリックしてもらうためには広告をだしてくださいね♪」とはさすがに言えません。利用者の皆さんにも、サイトを運営されている方々にもメリットがあります!っていうしかありません。

では本当のところはどうなの? AI Overviewsによって外部サイトへのトラフィックは実際にどう変化したの? ゼロクリックは本当に増えたの?
これについては、2025年春に発表された2つの調査レポートがありましたので紹介していきたいと思います。

  

 

Kevin Indig氏による分析(Growth Memoより)

 

SEO業界の著名なアナリストであるKevin Indig氏は、分析企業 Similarwebと協力し、5億件以上の検索クエリと2,000万以上のドメインを対象に、AI Overviews導入後のユーザー行動変化を調査しています。

Testing Google's Post-AIO Traffic Claims(Growth Memo)


それによると…

 

調査結果から見る AI Overviews と「ゼロクリック」の現在(Growth Memoより)

 

  • ゼロクリックの割合は、 AI Overviews 導入前の72%から、導入後は76%へと増加

ここはちょっと説明が必要ですね。
2024年5月に AI Overviews が正式にリリースされた後にゼロクリックが増加した多くのキーワードは、リリース前にもすでにゼロクリックだったそうです。
つまり、ゼロクリックは増加したといえるがそれはわずかな増加で、そもそもゼロクリックなキーワードである…ということのようです

  •  AI Overviews が表示されるキーワードは、他のキーワードに比べてページビューが約半分

 AI Overviews によってサイトに移動する前に概要がわかるので、サイトに移動した後のページビューが半分になると考えられますね
(ただし、AI Overviews キーワードからのページビューは2024年5月の導入以降21.5%増加したのに対し、非AI Overviews キーワードからのページビューは同期間で1.3%の増加)

※1つ目2つ目から、 AI Overviewは各サイトへのトラフィックを減らし、ページビュー数も減少させると言えそうです。これは広告インプレッション数に依存しているサイトにとっては致命的な打撃となりそうです。

  • 検索クエリの語数は平均で 3.27語 → 3.37語(米国)とわずかに増加

Kevin Indig氏によれば、この結果は Goolge が主張する「新しい検索行動」には程遠いし、の出現を示すには不十分な変化と指摘。

全体的な結論として、Kevin Indig氏は次のように述べています。

AI Overviewsは、ユーザーに素早く回答を提供する一方で、外部サイトへのトラフィックを奪っている構造になっている。Googleの「トラフィックが増加している」という説明は、AI Overviewsの局所的効果に過ぎない可能性がある。

 

 

SEMrushによる調査(2025年5月報告)

 

SEOツールベンダーのSEMRUSH社は、1,000万キーワード以上と20万件以上の検索データを用いて、AI Overviewsの出現率・表示傾向・業界別影響・ゼロクリック率などを網羅的に調査しました。広範囲にわたるかなり詳しい調査結果です。

Semrush AI Overviews Study: What 2025 SEO Data Tells Us About Google’s Search Shift(SEMRUSH)

 

この調査における、同じキーワードに対してAI Overviewsが導入される前と後のゼロクリック行動を比較したデータが以下になります。

調査結果から見る AI Overviews と「ゼロクリック」の現在(semrushから引用)

 

1月には AI Overviews が表示されなかったが3月には AI Overviews が表示されたキーワードの組み合わせも追跡して、同じキーワードに対して AI Overviews が導入される前と後でのゼロクリック行動を直接比較しているとのこと。

この結果からは、AI Overviews が表示される方がゼロクリック率が高くなることがわかります。
とはいえ、AI Overviews が表示されていない時のゼロクリックに比べて圧倒的に高くなるわけではないこともわかります。


調査結果では、AI Overviewsが常にクリック数を減らすわけではなさそうだと指摘しています。ゼロクリックは、AI Overviews によって増加するものの、クエリの種類、ユーザーの意図、AIによる回答の提供方法などの複雑な相互作用によって生まれるのではないかとのこと。

 

さらにこの調査では、(ゼロクリックという現象にとどまらず) AI Overviews 全般についてより深く調査を進めています。
AI Overviews が表示されるキーワードと表示されないキーワードがあることは知られていますが、では、どのようなキーワードで検索した時に AI Overviews が表示されるのかです。 以下のような分析がされています。

調査結果から見る AI Overviews と「ゼロクリック」の現在
(semrushから引用)

 

これによると、圧倒的に「情報収集」に関わるキーワードに対して AI Overviews が表示されているのがわかります。
情報収集も含めて全部で4つの分類がされていますが、それぞれおおよそ次のような結果になっています。

 

クエリタイプ意図の段階検索例AI Overviewsの関与度
インフォメーション 情報収集 「〇〇とは」「違い」 非常に高い
商業 比較検討 「おすすめ」「比較」 中程度〜拡大中
トランザクション 行動 「購入」「申込」 まだ低い(広告領域)
ナビゲーション ブランド指名 「LINE ログイン」など 増加傾向

 

 

さらに、AI Overviews が表示されるキーワードの95%は広告表示がない、またはCPCが非常に低いキーワードであることも指摘されています。これは、Googleが広告収益モデルへの混乱を意図的に避けながら、収益化が難しいクエリを中心に AI Overviews を展開しているのではないかとのこと。(広告収入への影響を考慮しているわけですね♪)

 

さらに、AI Overviews による業界別の影響の分析や、YouTubeなどのUGCメディアが AI Overviews 内に多く引用されており、動画の引用増加が今後さらに拡大する可能性があることなど、いくつもの分析が掲載されています。
(これらについての紹介は省略)

 

 

AI Overviewsは「ゼロクリックの原因」か?

 

この2つの調査からわかるのは、次のような点です。

 

  1. AI Overviews が外部サイトへのトラフィックを減らしている傾向は確かに存在する

  2. しかし、 AI Overviews 導入以前にもゼロクリックは存在しており、 AI Overviews によってゼロクリックが圧倒的に増えているとは言い切れない(微増)

  3. AI Overviews が表示されるキーワードは、他のキーワードに比べてページビューが約半分
    トラフィックの質が変わる


  4. AI Overviews の出現については(現在のところ)情報収集クエリーが圧倒的
    また、Googleは広告収益に直結しない領域での AI Overviews 導入を優先して、リスクを回避していると思われる

 

 

ネット上にも 「ゼロクリック」という言葉が増え、 「AI Overviews の登場で青いリンクは全くクリックされなくなる!大変だ大変だ~!」というニュアンスがあふれていますが、調査結果を見る限り事態はもう少し控えめであり、かつ複雑であることがわかります。とはいえ、ゼロクリック率が低いから安心♪…無視していい…と言いたいわけではありません。 AI Overviews ゼロクリックが増加していることは紛れもない事実ですし、これから AI Overviews の仕組みが大きく変わっていくことが予想されますので、アンテナを高く張って現状をしっかりと認識し、それに対応していくしかありません。

私たちは現在、ネット活用という領域においては、どんなに頑張っても Google や Meta や Apple、さらには OpenAI などのプラットフォーマーが決める仕組みの中で右往左往するしかありません。今回の AI Overviews やゼロクリックは、その仕組み(ゲーム)の中の「ルール変更」という位置づけになります。ルールーが変わるということは、それまでの「有利」が必ずしも継続されるわけではなく、「不利」だったところにチャンスが生まれていることでもあります。ぜひ、そのような目で捉えていきたいものです。

 

より具体的には、 AI Overviews は、SEOのゲームルールそのものを変えていると言えます。
これまでのような「検索順位で上位を取る」だけではなく、AIによって「答え」として認識されるかどうかという、別な軸が登場しているからです。クリックされなくても、表示され、信頼され、引用される。それが、これからの「ポストクリック時代」のSEO戦略の本質かもしれません。

ぜひ、2つの調査結果をご覧になってみてくださいね。

 

 
次回をお楽しみに!

 

こちらの記事もおすすめ!

AI検索は「順位」よりも「Retrieval」など、ネット活用に役立つ記事をピックアップ #238

AI検索は「順位」よりも「Retrieval」など、ネット活用に役立つ記事をピックアップ #238

続きを読む...
AI Overview はどう使われている?など、ネット活用に役立つ記事をピックアップ #237

AI Overview はどう使われている?など、ネット活用に役立つ記事をピックアップ #237

続きを読む...
調査結果から見る AI Overviews と「ゼロクリック」の現在

調査結果から見る AI Overview と「ゼロクリック」の現在

続きを読む...

ネット活用のヒントを配信中!

Podcast 配信中

無料メールマガジン、購読申し込み

無料メールマガジン
ネットの活用で、地方が変わる!会社が変わる!

ネットの活用情報を地方・中小企業の視点でお届け

 

ネット活用のヒントを check!!

 

 


ネット活用で
「どうしたらいいか分からない」とお悩みの方へ
まずはお気軽にご相談ください

無料で相談してみる